「ひとり仕様の絵」が、伝えること。

小金井市のギャラリーテムズで開催されている野崎健雄さんの個展に伺った。奥様が経営する画廊で野崎さんの個展が開催される度に伺っていたが、ここ1〜2年はコロナ禍でご無沙汰だった。だから最寄駅から武蔵小金井駅まで約1時間半の道中は、久しぶりに行くピクニックのようで楽しい気分だった。

閑静な住宅街の一角に建つギャラリーテムズの入口では、いつものように健やかな寄せ植えの緑が迎えてくれた。中へ入ると、和室のような温もりのある空間に、野崎さんの作品がリズミカルに飾られていた。抽象画だが、重厚なマチエルと表情豊かな筆跡には奥深い情感を毎回感じる。が、今回は、少し変化を見せていた。

「僕は制作する上で質量を大切にしているんだよ」
いつかの個展で野崎さんはそう私に話していた。キャンバスにモデリングペーストを塗り、注意深く絵具を塗り重ねて重厚感を作り上げていく画風には、野崎さんの自己対話の痕跡が表れていた。
でも今回はそういった重厚感が見られない作品がいくつかあり、いつもの空間に、新鮮な切れ味を出していた。

「游」油彩、キャンバス F30 。野崎さんの言葉でいうなら「ひとり仕様の絵」だ。「遊」は、「遊び」を意味するが、「游」は「なげやり」のような意味合いを持つ。これはネガティブな意味ではなく、気張らずに浸っていられるような心地よい空間の表現だという。
勢いよく走る筆跡の間から白いモデリングペーストの下地が見える。少し離れてみると、画面上に吹き荒れる嵐のようでもあった。

「もうね、重厚感にこだわっていないで自由にやろうと思ったんだよ」と笑いながらいう野崎さんも、どこか突き抜けたような爽やかな表情をしていた。

キャンバス上を自由に走る筆跡に、いつか見た、若い書家のカリグラフィーを思った。一瞬で表現される線には思考の余地がない。緻密に計算して積み上げられたものより鮮度が高く、本能的だ。ある時は力強く、ある時は繊細に、私たちの情動に訴えかける。



「游」油彩、キャンバス


私はふと考えた。どうして人は様式を作るのだろう。
絵を学ぶ初段階として、私たちはデッサンの技法を習得する。客観的なものの見方を身に付けることで、芸術を知らない人にも芸術を伝えやすくする。これは子供が社会に適応するために一般教養を身につけるのと同じ過程だ。
でも様式が完成されていくと、作り手の感性は鮮度を落としていく。

様式とは一種の鎧なのかなと思う。どこへ飛ぶか分からない本能から身を守り、社会に馴染みやすくするために、作品をアイコン化すること。安心して着地できるところが無ければ、観賞側は、芸術によって、どこへ連れていかれるかわからないからだ。
いずれにせよ、私たちは様式を築き上げた後、それを壊す時が来るのだろうなと思う。若い時のような向こう見ずな衝動ではではなくて、経験で得た正と負の感情を一度手放すことで、感性はより鮮度と純度を増していく。野崎さんにはそんな意識の変化があったのかもしれない。


野崎健雄展 
10/18(月)〜22日(金)12:00-17:00
ギャラリーテムズ
東京都小金井市前原町3-20-2
Tel.042-384-3564


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