田中一村展に行った。
前から好きで、やっと東京の美術館で展示してくれたので、生絵を見ることができた。
若い時の南画は細かい描写力と大胆な筆使いで力強い絵が多かった。メリハリのきいた鮮やかな色使いも特徴の一つだが、近寄ってみると、そんなに描き込んでいるように見えなかった。少ない線で正確に形をとらえるデッサン力には脱帽。素材感と厚塗りマチエルと色彩が絶妙にマッチしていて、めちゃうまい!
晩年の作品は、構図にはっきりと狙いが現れるようになり、絵の中に出てくる鳥や昆虫たちが、人間みたいにものを考えているようだった。
一村自身も晩年は一人、奄美大島に渡り、豊かで寛容な自然に抱かれながら、自身の生死について考えていたのだろう。でも、幸せだったに違いない。だってこんな、御殿なような場所で絵を描いていられたのだから。
田中一村を表す言葉の一つとして「清貧」がある。
いくら成功しても栄華を極めても、人を妬んだり恨んだり、さらなる名誉欲、金銭欲にかられたり、いつまでも煩悩から抜け出せない人もいる。清貧とは、そういった人間の欲望を一切取り除いた先に見える悟りの境地ではないか。
一村だって、奄美大島に渡る前は画壇に認められず、不遇に苦しみ続けた。ただ一人の支援者だった姉さえも失い、孤独の身で奄美大島に渡った。奄美の自然を描くという甘美な好奇心はあったと思うが、それと同じくらい孤独の覚悟も必要としただろう。
不遇と貧困に限界まで追い込まれたからこそ、一村は本当の豊かさに目覚めることができたのだと思う。晩年の絵は、そんな一村を物語るかのように、鮮やかで力強い生命力にあふれていた。
もうあとがない、もうどうなってもいいという気持ちになると、たかが外れたように、才能が開花するのかな。その境地に達し、画業を存分に楽しめた田中一村は最高に幸せな芸術家だったと思う。
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