「個」のない人々に起きる事。

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食卓を囲んだ、擬人化した動物たち。子どもたちが喧嘩をしたり、床で行儀悪く食事をしたりしていて、夫婦がなかなか食事をはじめることができない。壁には17世紀フランスの詩人、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌによる『寓話』のカラスと狐の1コマを表した絵画がかけられている。動物たちを主人公にして、教訓を盛りこんだ話が詩文形式で綴られている。

この物語は、チーズを食べようとくわえていたカラスが、狐に美声の持ち主だとおだてられて、声を出そうとした瞬間にチーズを落とし、奪われてしまったという話しだ。人間の皮肉をたっぷり描いたもので、戦争中から戦後にわたって、人間の豹変ぶり、狡さ、闘いを見てきた藤田の人間に対する不信感を思わせる—-。

MUSEYでこの絵の紹介を見たときに、藤田嗣治が戦時中の日本で見たものが分かった気がして、少し胸が痛くなった。

藤田は祖国の画壇では認められなかった。異国の土地で個性を生かし、才能を開花させていった。自由に世界を旅していた藤田だったが、日本人であることを常に意識していたのは、「帰るべき場所」として日本を思っていたからだと思う。
戦時中の日本で藤田が戦争画の制作を引き受けたのは、多分自己犠牲的な選択だ。日本の一兵士と同じように祖国に貢献したかったのだと思う。しかし戦後の社会の変容によって、正義と信じてやってきた事が、批判される結果となった。

藤田嗣治の見た日本と、今の日本はそんなに差がない。個よりも集団を重んじ、大きな権力に身を委ね、そこで起きた感情を共有する事で仲間意識を深めていく。「個」がない、つまり自分の考えで行動しないのだから、起きたことに責任を取らない。だから失敗を人のせいにしたり、成功している人に嫉妬する。
藤田がどんなに祖国を思おうとも、外国で成功し「個」を確立した時点で、日本ではすでによそ者なのだ。

茫洋とした大きな海で、恐る恐る頭を出したり引っ込めたりする人々。本当は顔を上げて自分の気持ちや考えを言いたいのだけど、人の顔色を伺ってからでないと、それを表現しない。自分の気持ちを主体に考えないので、相手の気持ちを信じる事ができない。だから猜疑心や、裏切りが生まれる。

誰もがもっと自分や他者を愛したいし信じたいと思っているのではないだろうか。最近は些細な発言で集団リンチに合う事が多いが、押し黙っている人たちの社会にリノベーションは起こらない。でもそのような人たちも、本当は自分が何を感じ、何を言いたいのか考えているのだと思う。依存心は捨てて、まず自分自身を発信していく方が誠実だ。
日本人がもっと「個」を大切にして、他人も大切にできる社会を作っていければいいのになと思う。


藤田嗣治 ラ・フォンテーヌ頌 1949年(MUSEYより)

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Tomomi Sato

日常や今社会で起きている出来事を、アートな視点で捉え、私たちがもっと自然体で、エキサイティングに生きられるような、ものの見方、心のあり方を探っていこうと思います。

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