小学校1年から3年間、福岡に住んでいた。通学路には、畑や田圃が続いていて、帰り道はよく友達とカエルやおたまじゃくしを捕まえたり、たんぽぽや蓮華、クローバーを摘んで帰った。
私の住んでいた街には猫が多く、子猫を連れている母猫がいたり、道端で箱に入った子猫を見つけて持ち帰ったこともあり、動物のように思えない親しみがあった。
猫の丸い顔は可愛らしく、体の曲線は優美だ。猫が動く時、その曲線は滑らかに動く。私は湧き立つような感情が溢れ出てきて、思わず追いかけた。猫は素早く私から逃げていった。
猫にも性格があるらしい。人を見ると警戒する猫もいれば、じっと見つめたり、近寄ってきたりする猫もいた。
ある日、おっとりと散歩する猫を見かけた。私をぼんやりと見返し、それからとぼとぼと道を歩き始めた。
私は思わぬチャンスに体が湧いた。猫に近寄り、尻尾を掴むことに成功した。猫はびっくりしたように、ギャーギャー鳴いた。私は、手に力を込めて尻尾をひっぱり、猫の体を手繰り寄せようとした。
すると猫は、くるりとこちらに向き、私の足に絡みついた。脹脛に何かが深く食い込んで、思わず私は「痛っ」と声をあげた。尻尾を放たれた猫は素早く去っていた。
靴下を下げてみると、深さ5mmくらいの噛み傷が残っていた。
家に帰って傷の処置をしてもらったが、傷の治りはあまり早くなく、数週間経っても、三角の茶色い傷が残っていた。
「猫のしっぽ引っ張るなんて、あんたもやることすごいわね」と近所のおばさんに言われて、愕然とする。
あの猫を見た時、私は変な野獣に乗っ取られたみたいで、身体中が火のように興奮していた。その興奮の代償がこれだ、と私は脹脛に残った茶色い傷を見つめた。
可愛いらしく、柔らかそうな猫も、身の危険を感じたら人を傷つけるのだ、という生々しい体験に、私の体の炎が諌められていくようだった。
言葉とアートで人生をブレイクスルーするフリーランス画家 佐藤智美」メルマガ登録はこちら
【TOMOMI SATOS ART WORKS】https://www.ts-artworks.com
【TOMOMI SATOS ART】https://artworks2017.thebase.in
【TOMOMI SATOS ART BLOG】https://tomomiart.tokyo
教会で牧師さんと話していて、「ほとんどの人は欲でものを言い、動いていますね。愛って、あってないようなもの」と私が言ったら「大半の人は反射神経で喋っています。愛とか思いやりとか、深く考えない」という返答が返ってきた。
近頃周りでも、定年を迎えた夫婦の家庭問題や健康、金銭問題の話を聞く。生活レベルを落とした時に表出するいろいろな問題に誰もが諦観的なのは、老いて体が動けなくなってからでは打つ手がないからだろう。
朝起きると、和室の茶色い柱と漆喰の壁が目に入る。ちょうど私が結婚した27年前も同じものを見ていた。いつも彼と一緒にいた。そうすることでやっと生きていた自分は目に映るものがとても新鮮だったことを思い出した。
お宝鑑定団で初めて鴨居玲という画家を知った。ゴッホと同じ自画像作家として有名だが、幽霊のようなピエロのような自画像を見ていたら、目を背けていたものにまざまざ向き合わされたようだった。
大切なものは「その人」を語る。距離が近くて言いたいことを言い合い傷つけあった人たちにも、大事にしているもの、楽しみにしていることがあった。向き合った時の言葉や顔色だけでなく、周辺まで見ると、一個人が立体的に見えてくる。
【個展開催のお知らせ】佐藤智美展〜INSPIRATION 会期:2024年4月10日(水)〜14日(日) 会期中無休 時間:11:00~20:00 ※4/10(水) 13:00-20:00 4/14 (日)11:00-16:00 場所:Gallery Klyuch (カフェle bois 2F)