詩集の出版の機会を私に与えてくださったのは、出版社健友館の社長で編集者の水沢渓さんだ。水沢さんは、あの不祥事で倒産した山一証券社員と病院長のキャリアを経て、ジャーナリスト、作家としても活躍していた。主に政治や金融、健康に関する著作や、お酒の紹介本も多数ある。
水沢さんは、私の詩にとても共感してくださり、宣伝販売活動にも力を入れてくださった。また作家として私との出会いをとても喜んでくださり、お酒の美味しいレストランへ行っては、文学や社会情勢、政治について考えを交換した。
私と水沢さんは歳が33も離れていた。水沢さんは私に「あなたは俺よりもずっと才能があるよ」といっていたけれど、文学や社会についての考えは私の何倍も深く、社会へ発信していく情熱は、私の何倍も強かった。そんな人が、私の詩の何に惹かれたのだろう、と不思議だった。
私はこの詩集で、多くの人と知り合えた。のちに文学学校で出会う小説家や、その門下生たち、デザインの仕事で関わることになる人たちも、この詩集で繋がった。
詩集を出版したときは、私を知ってほしいとか、私を受容して欲しい気持ちでいっぱいだったけど、実際の交流はそんなに容易いものではなかった。
特に文学を志す人たちは、彼らの考えを容赦無くぶつけて来て、私は怒ったり傷ついたりの連続だった。文学の領域を超えて、私に深く共感してくださった人は、水沢さんくらいだった。
共感してもらえるって、ありがたいことだ。水沢さんは文学だけでなく、私を人間としても認めてくださったのだ。なのに私は、自分を高めることばかり考えていて、水沢さんの厚意をきちんと受け取ることができなかった。
水沢さんは2009年に膵臓癌で他界した。お礼を言いたくても言うことができない。大事なお神酒を零してまったような後悔が今もある。あの時、心から感謝することができていたら、後に私が出ていく「創作の戦地」で強くなれたのになあと思う。
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水沢さんの思い出。
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